基礎知識集

AGVの基礎知識

AGVの正確な走行を実現する「墨出し」の重要ポイント

AGV台車 イメージ

近年、工場や物流現場で無人搬送車(AGV)の導入が急速に進んでいます。生産性向上や人手不足解消の切り札として注目されるAGVですが、その導入を成功させるには、単にAGVを導入するだけでなく、稼働環境の整備が不可欠です。特に、AGVが走行するコースの基準となる「墨出し」作業は、AGVシステムの安定稼働を左右する極めて重要な工程です。

 AGV導入における「墨出し」とは?なぜ重要なのか

「墨出し」とは、建築や土木の現場で用いられる用語で、設計図に基づき、実際の現場に基準となる線や位置を示す作業を指します。AGVの導入においては、磁気テープやガイド線といったAGVの走行経路を床面に貼る・設置する前に、その正確な位置を示すための印をつける作業が「墨出し」にあたります。

この墨出し作業の精度が低いと、以下のような問題が発生する可能性があります。

  • AGVの走行不良: コースが正確に引かれていないと、AGVが脱線したり、停止位置がずれたりするなど、スムーズな走行が妨げられます。
  • 生産性低下: 走行不良によるAGVの停止や遅延は、生産ライン全体の効率を低下させ、納期遅延にも繋がりかねません。
  • 修正作業の発生: 墨出しの誤りは、磁気テープの貼り直しやシステムの再調整など、後工程での大幅な手戻り作業を発生させ、余計なコストと時間を要します。

「墨出し」は、まさにAGVが意図した通りに稼働するための「土台作り」であり、その後の運用に大きな影響を与えるため、極めて慎重かつ正確に行う必要があります。

コースレイアウト図面と現場の「ズレ」をなくす視点

コースレイアウト イメージ

AGVのコースレイアウトは、通常、CADなどの設計ツールで作成されます。しかし、この図面と実際の現場作業には、しばしば認識のズレが生じやすいポイントがあります。

磁気テープの幅を考慮する重要性

設計図面では、AGVが追従する磁気テープの「芯(中心線)」でコースが示されていることがほとんどです。しかし、実際に磁気テープを貼る際は、テープそのものの「幅」が存在します。このテープ幅を考慮せずに図面通りの芯に墨出しをしてしまうと、以下のような問題が発生します。

  • 墨が隠れてしまう: 磁気テープの芯に墨を出してしまうと、テープを貼った際に墨が隠れてしまい、基準線として機能しなくなります。
  • テープの貼り付け位置のずれ: 芯に墨を出し、そこから左右どちらかにテープを貼ると、テープの幅分だけ実際の走行経路がずれてしまいます。広範囲にわたるコースで複数の作業者がそれぞれ異なる方向へテープを貼ってしまうと、最終的に大きくコースがずれてしまう可能性もあります。

このため、設計図面がテープ芯で書かれていたとしても、実際の現場での墨出しは、テープ幅を考慮した「面墨(ツラズミ)」で行うことが重要です。つまり、磁気テープの端が墨に合うように印をつけることで、正確なコースを設定できます。

左右どちらに貼るか明確な指示を出す

面墨で墨出しを行う場合でも、磁気テープを墨線の左右どちら側に貼るのかを明確にする必要があります。この指示が曖昧だと、作業者によって貼り付け方向が異なり、結果としてコースがずれる原因となります。

事前にAGV導入に関わるすべての作業者間で、墨出しのルールやテープの貼り付け方向について統一した認識を持つことが不可欠です。具体的な印の付け方や表示方法に規定はないものの、誰もが理解できるような形で明示し、誤りの発生を防ぐ工夫が求められます。

正確な墨出しがもたらすAGV運用のメリット

正確な墨出しは、AGVシステムの円滑な導入だけでなく、長期的な安定運用にも大きく寄与します。

  • AGVの安定走行: 正確にコースが設定されることで、AGVは安定した走行経路を保ち、脱線や接触のリスクを低減します。
  • トラブル発生率の低減: 走行不良に起因するAGVの停止やエラーが減少し、システム全体の信頼性が向上します。
  • 生産ラインの効率化: AGVが計画通りに稼働することで、部品供給や製品搬送がスムーズに行われ、生産ライン全体の効率化に貢献します。
  • メンテナンス負荷の軽減: 墨出しの精度が高いほど、後々の微調整や修正作業が少なくなり、運用開始後のメンテナンス負荷を軽減できます。

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