近年、工場や物流現場で無人搬送車(AGV)の導入が急速に進んでいます。生産性向上や人手不足解消の切り札として注目されるAGVですが、その導入を成功させるには、単にAGVを導入するだけでなく、稼働環境の整備が不可欠です。特に、AGVが走行するコースの基準となる「墨出し」作業は、AGVシステムの安定稼働を左右する極めて重要な工程です。
AGV導入における「墨出し」とは?なぜ重要なのか
「墨出し」とは、建築や土木の現場で用いられる用語で、設計図に基づき、実際の現場に基準となる線や位置を示す作業を指します。AGVの導入においては、磁気テープやガイド線といったAGVの走行経路を床面に貼る・設置する前に、その正確な位置を示すための印をつける作業が「墨出し」にあたります。
この墨出し作業の精度が低いと、以下のような問題が発生する可能性があります。
「墨出し」は、まさにAGVが意図した通りに稼働するための「土台作り」であり、その後の運用に大きな影響を与えるため、極めて慎重かつ正確に行う必要があります。
AGVのコースレイアウトは、通常、CADなどの設計ツールで作成されます。しかし、この図面と実際の現場作業には、しばしば認識のズレが生じやすいポイントがあります。
設計図面では、AGVが追従する磁気テープの「芯(中心線)」でコースが示されていることがほとんどです。しかし、実際に磁気テープを貼る際は、テープそのものの「幅」が存在します。このテープ幅を考慮せずに図面通りの芯に墨出しをしてしまうと、以下のような問題が発生します。
このため、設計図面がテープ芯で書かれていたとしても、実際の現場での墨出しは、テープ幅を考慮した「面墨(ツラズミ)」で行うことが重要です。つまり、磁気テープの端が墨に合うように印をつけることで、正確なコースを設定できます。
面墨で墨出しを行う場合でも、磁気テープを墨線の左右どちら側に貼るのかを明確にする必要があります。この指示が曖昧だと、作業者によって貼り付け方向が異なり、結果としてコースがずれる原因となります。
事前にAGV導入に関わるすべての作業者間で、墨出しのルールやテープの貼り付け方向について統一した認識を持つことが不可欠です。具体的な印の付け方や表示方法に規定はないものの、誰もが理解できるような形で明示し、誤りの発生を防ぐ工夫が求められます。
正確な墨出しは、AGVシステムの円滑な導入だけでなく、長期的な安定運用にも大きく寄与します。